其の三十三 「天然と養殖」

最近は養殖技術が上がり、養殖の魚が出回っている。
おかげで安価に身近に高級魚が食べられる。
養殖物でよく見るのが鯛、はまち、鰻、鮎。
鯛は普通のスーパーで天然物も手に入るので、比較がし易いし、選べるので大きな問題はない。
味の方は、やはり値段や入手の困難さ相応の違いはある、とおっさんは思う。
まず見た目が違う。天然物は桜色で美しい。
そして脂。焼いても煮ても養殖物は脂が気になる。
はまちの天然物はまれにしか見かけない。
寿司屋で出るのも養殖物が大半なので、はまちの味=養殖物の味、と一般には認識されているだろう。
鰻や鮎となると、ますますその傾向が強くなる。
この点がおっさんにはありがたくない。
鮎などは香魚と称されるほど香りの良い魚なのだが、それは天然物で川底の苔を食べてこそであって、養殖物ではその香りは味わえない。
養殖物の鮎の味が一般的な鮎の味と認識されることは、鮎の価値がかなり低く認識されてしまうことになる。
しかし、天然物の鮎を食べるためには、一流の料亭で大金を出すか、自分で釣るか、鮎の採れる川の近くの「特別なお店」(川の近くでも大抵のお店は養殖物だ)を見つけるか、といった努力?が必要となる。
それだけのお金も執念もないおっさんはあまり鮎を食べないのだが、たまにコースで養殖の鮎が出てくることがある。
そんな時は心の中でため息をつきながら、しかし子持ち鮎だったりすると、それなりに楽しんでいる。