其の九 「京の名店の記憶 美山荘、万亀楼、大市」

あまから手帖の味のたくみにも掲載された京は花背の摘草料理の「美山荘」。
お膳を運んできた仲居さんが羽織袴だったときには、その演出にちょっと驚いた。
栗の木を削った箸。近くの山で採ってきた菜、店の庭で育った野菜、近くの川で採ってきた魚と新鮮な素材が見事に懐石料理風に仕上げられている。
素朴かつ洗練された味。最後に出てきたとち餅が象徴的だった。
京の伝統ある懐石料理店の中でも有職料理、式包丁の肩書きがある「万亀楼」。
季節の素材が見事に細工され、一品一品が整った味で出てくる。
昼過ぎの遅い時間に若い男1人での来店だったので、珍しかったのか客が引いた時間帯だったからなのか、女将さんも話し相手になってくれ、帰りも門の外まで見送ってくれた。
応仁の乱の矢の跡が建物についているという伝統をもつすっぽん料理の「大市」。
すっぽんの身が浮いているだけのすっぽん鍋とぞうすい。それだけが出てくる。すっぽんの旨みが凝縮された鍋。
どの店も来店してから20年以上経っているが、そのときの場面がくっきりと思い出される。
1人前1万8千円ほどしたが、どの店もかつて経験した事のない味と感動を味あわせてくれたなあ。